「奨学金は借りたほうがいいのか、それとも避けたほうがいいのか」——この質問に、実は一律の正解はありません。
進学費用をどう工面するかは、家庭の状況や進路によって最適な答えが変わります。みんな借りているから・なんとなく不安だからといった曖昧な理由で判断してしまうと、卒業後になってこんなはずじゃなかったと後悔することにもなりかねません。
この記事では、奨学金を借りるべきかどうかを判断するための具体的な基準を中立的な立場から整理します。特定の選択を推奨するものではありませんが、読み終える頃には、ご家庭にとって後悔のない選び方をするための材料が揃っているはずです。
奨学金を借りるべきか迷う親が陥りやすい「3つの誤解」
奨学金って、結局どんな制度なんだっけというのは、実は多くの保護者が抱いているイメージと、実際の制度内容にはズレがある部分です。まずは、判断を誤らせやすい3つの誤解を整理していきましょう。
「奨学金=給付型」と思っていたら大半が貸与型だった
奨学金をもらえば、返さなくていいんでしょという認識のまま利用を決めてしまう方が少なくありません。
日本学生支援機構(JASSO)の令和4年度の支援実績によると、大学学部における奨学金受給者の割合は32.3%です。また、学生自身の申告による調査では、約2人に1人が何らかの奨学金を利用していると回答しています。しかし、主流を占めるのは返済不要の給付型ではなく、卒業後に返済が必要な貸与型です。
- 奨学金という言葉全体を、返済不要な制度だと思い込んでいないか
- 給付型は世帯収入などの基準が厳しく、対象になる家庭は貸与型に比べて限られる
- 奨学金をもらうではなく、奨学金を借りるという感覚を最初から持っておく必要がある
まず、自分の子どもが対象になるのは給付型か貸与型かを早い段階で確認することが、後悔しない判断の出発点です。
「みんな借りているから大丈夫」という根拠のない安心感
周りの友達もほとんど借りているから、うちも借りて大丈夫だろうという安心感には、注意すべき落とし穴があります。
確かに、大学生の多くが何らかの奨学金を利用しているというデータは事実です。しかし、多くの人が利用しているということと、自分の家庭にとって適切な借入額かどうかは、まったく別の問題です。同じ奨学金を借りているという状況でも、借入総額や返済期間・家庭の状況は一人ひとり異なります。
- みんな借りているからという理由だけで、必要な金額の検討をおろそかにしていないか
- 友人の借入額や返済状況を、そのまま自分の家庭に当てはめていないか
- 借りて当たり前という空気に流され、給付型や授業料減免など他の選択肢の検討が疎かになっていないか
周囲の状況を参考にすることは悪いことではありませんが、最終的な判断は、自分の家庭の状況に照らして行う必要があります。
子どもに返済の実感がないまま借りさせてしまうリスク
手続きは親がやっておくから、あなたは勉強に集中してという気遣いが、思わぬ形で子どもを困らせることがあります。
貸与型奨学金は、契約者は子ども自身であり、卒業後に返済していくのも子ども本人です。しかし、申し込み手続きの多くを親が主導して進めてしまうと、子ども自身がこれは自分の借金であるという実感を持たないまま契約が完了してしまうことがあります。
- 子どもが、奨学金の総額や返済期間を具体的に把握していないまま在学期間を過ごしていないか
- 親が何とかしてくれるだろうという感覚のまま、返済開始の時期を迎えてしまわないか
- 借りている最中に、返済シミュレーションなどを通じて実感を持つ機会を作れているか
前の記事で紹介した返済シミュレーションを親子で一緒に確認することは、この実感のなさを埋める効果的な方法です。次の章では、こうした誤解を踏まえた上で、実際にどう判断すればよいかの具体的な基準を紹介します。
奨学金を借りるべきか判断するための家計チェックポイント
前の章で紹介した誤解を踏まえた上で、ここからは実際に借りるべきか・いくら借りるべきかを判断するための具体的な手順を紹介します。感覚ではなく、数字に基づいて判断していきましょう。
まず把握すべき「進学にかかる総費用」の正しい計算方法
学費だけ確認しておけば大丈夫という考え方では、進学にかかる総費用を正しく把握したことにはなりません。
進学費用を計算する際は、学費(入学金・授業料など)に加えて、生活費も含めた総額で考える必要があります。特に自宅を離れて進学する場合は、家賃・食費・光熱費などの生活費が、学費と同等かそれ以上の金額になることも珍しくありません。
- 入学金・授業料など、学校に直接支払う費用の総額(4年間または6年間分)
- 教材費・実習費など、学費以外に学校生活で発生する費用
- 一人暮らしをする場合の家賃・生活費(4年間分の見込み)
- 入学時の一時的な費用(引っ越し費用・家財道具の購入費など)
これらをすべて足し合わせた金額が、進学にかかる本当の総費用です。学費だけを見てこれくらいなら大丈夫と判断してしまうと、想定外の生活費で家計が圧迫される原因になります。
貯蓄・収入・教育ローンと比較して奨学金が必要な金額を割り出す
進学にかかる総費用が分かったら、次は何で・どれだけ賄うかを整理していきます。
まず、これまでに準備してきた貯蓄(学資保険なども含む)でどれだけ賄えるかを確認します。次に、進学時点での家庭の収入から、在学中に継続的に支払える金額を見積もります。それでも不足する部分について、教育ローン(まとまった金額を保護者が借りる)と奨学金(学生本人が借りる、または給付を受ける)のどちらで、あるいは両方でどう補うかを検討します。
- 総費用-貯蓄でまかなえる金額-在学中に継続的に払える金額=不足額
- 不足額のうち、入学前後の一時的な支出は教育ローンで対応しやすい
- 不足額のうち、在学中の継続的な支出は奨学金(給付型・貸与型)で対応しやすい
こうして初めて、本当に必要な奨学金の金額が具体的に見えてきます。なんとなく不安だから多めに借りておくのではなく、この引き算のプロセスを経てから金額を決めることが、借りすぎを防ぐ確実な方法です。
第一種・第二種・給付型の違いと、わが家に合った種類の選び方
必要な金額が見えたら、最後にどの種類の奨学金を選ぶかを検討します。基本的な考え方は、条件が良い制度から順に検討するというシンプルなものです。
まず検討すべきは、返済不要の給付型奨学金です。住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯であれば、授業料・入学金の減免とあわせて対象になる可能性があります。給付型の対象にならない、あるいは給付型だけでは不足する場合は、無利子の第一種奨学金を検討します。第一種は学力・家計の基準がやや厳しめに設定されていますが、利息がつかない分、総返済額を抑えられます。それでも不足する場合に、有利子の第二種奨学金を検討するという順番になります。
- 給付型(返済不要)で対象になるか確認する
- 第一種(無利子)で対象になるか確認する
- それでも不足する場合に、第二種(有利子)を検討する
とりあえず第二種で多めに借りておくのではなく、条件の良い制度から順番に検討し、本当に必要な分だけ有利子の第二種で補うという考え方が、後悔しない選び方の基本です。
奨学金を借りるべきか後悔しないために知っておく返済の現実
判断基準が分かったところで、最後に実際に返済が始まったらどうなるかという現実的な部分を、具体的な数字とともに確認しておきましょう。
月々いくら返すのか? 卒業後の手取りと照らした返済シミュレーション
「毎月〇円返すだけなら、なんとかなりそう」——奨学金を検討する際、多くの方がこのように感じるものです。しかし、この感覚だけで判断してしまうと、実際に返済が始まってから資金繰りに悩むケースも少なくありません。ここでは、平均的な貸与額をもとにした返済シミュレーションを通じて、手取り収入と照らし合わせながら具体的にイメージしていきましょう。
日本学生支援機構(JASSO)のデータによれば、大学学部生の平均貸与総額は313万円、平均返還年数は15年とされています。仮にこの金額を単純に均等返済した場合、月々の返済額はおよそ1万7,000円台になる計算です(第二種の場合はこれに利息が加わるため、実際の返済額はやや高くなります)。この金額を、卒業後の初任給の手取り額と照らし合わせてみましょう。
- 家賃・食費・光熱費などの生活費を差し引いた後、この返済額が無理なく収まるか
- 社会人1年目は住民税の負担が翌年度から始まるなど、手取りが年々変動することも見込む
- ボーナスをあてにした返済計画になっていないか
「借りている間」の感覚だけでなく、「卒業後、実際の給与明細からこの金額が差し引かれる」という具体的な場面をイメージしておくことが、後悔しない判断につながります。
なお、貸与額・返還額の最新の試算は、日本学生支援機構の公式シミュレーションサイトでご確認ください。
返済が苦しくなったときに使える猶予・減額制度を親子で確認する
「もし返済が苦しくなったらどうしよう」——この不安を抱えたまま借りるより、あらかじめ救済制度の存在を知っておくほうが、心の負担は軽くなります。ここでは、返済が困難になった場合に利用できる公的な救済制度を、親子で確認しておきたいポイントとともに整理します。
日本学生支援機構(JASSO)には、返還月額を2分の1・3分の2・3分の1・4分の1に減らせる減額返還制度や、災害・傷病・経済的困難などの事由に該当する場合に返還期限を先送りできる返還期限猶予制度が用意されています。いずれも、滞納する前に、自分から願い出ることが前提の制度です。
- 収入が予定より少なく、返済が苦しいと感じたら、滞納する前にJASSOへ相談する
- 減額返還・返還期限猶予とも、事前の申請と審査が必要であることを知っておく
- 「制度があるから大丈夫」ではなく、万一のときの備えとして知っておくという位置づけで理解する
これらの制度の存在を、借りる前の段階で子どもと一緒に確認しておくことで、返済できなくなったら人生が終わるという過度な不安を和らげつつ、計画的に返済していく意識を持たせることができます。
借りすぎを防ぐ上限ラインの決め方と子どもへの伝え方
「結局、いくらまでなら借りていいのか」——この上限ラインを、あらかじめ家庭で決めておくことが、借りすぎを防ぐ実践的な方法です。ここでは、上限ラインの考え方と、それを子どもにどう伝えるかについて確認していきましょう。
上限ラインの決め方に絶対的な正解はありませんが、一つの目安として、卒業後の想定初任給の、おおよそ1年分以内という考え方があります。例えば、初任給の年収が250万円前後と想定されるなら、借入総額もその範囲に収まるよう、借りる金額や期間を調整するという考え方です。
- 「借りられる限度額」ではなく、卒業後に無理なく返せる金額を上限として設定する
- 上限ラインを決めたら、その金額を子どもにも共有し、なぜこの金額にしたのかを説明する
- 上限を超える部分が必要な場合は、進学先や生活スタイル(自宅通学か一人暮らしかなど)の見直しも選択肢に入れる
この上限ラインを親子で共有しておくことは、なんとなく不安だから多めに借りるという判断を防ぎ、子ども自身が自分の借入額に納得感を持てるようにするための、大切なプロセスです。
参考:月々の返還額を少なくする(減額返還制度) | JASSO
参考:学生生活調査・高等専門学校生生活調査・専門学校生生活調査 | JASSO
奨学金の判断を子どもの金融教育につなげる親の関わり方
奨学金を借りるかどうかの判断は、単なる家計の問題にとどまりません。この過程そのものが、子どもにとって人生で最初に経験する、大きなお金の意思決定になります。最後に、この経験を金融教育につなげる関わり方を紹介します。
なぜ借りるのかを一緒に考えることがお金の授業になる
「借りる・借りない」という結論だけを子どもに伝えるのは、実はもったいないことです。大切なのは、その結論に至るまでの考える過程を、一緒にたどることです。ここでは、判断のプロセスをどのように子どもと共有していくか、具体的な関わり方を見ていきましょう。
これまでの章で紹介した、進学にかかる総費用の計算、貯蓄・収入との比較、そして返済シミュレーション——この一連のプロセスを、子どもにも見える形で進めてみましょう。「なぜうちはこの金額を借りることにしたのか」を、子ども自身が説明できるくらいまで理解できれば、それは学校の授業では得られない、実践的なお金の学びになります。
- 結論だけでなく、判断に至った理由や比較したデータも一緒に見せる
- 子どもの意見や希望(自宅通学か一人暮らしかなど)も、判断材料として取り入れる
- 「決めたのは親」ではなく「一緒に決めた」という感覚を持たせる
奨学金というテーマは、教科書の中の話ではなく、子ども自身の進路に直結する、身近で切実なお金の授業なのです。
中学生から始めたい奨学金・ローン・利子の基礎知識の教え方
「奨学金の話は、進路が具体的になってから」——そう考えがちですが、基礎知識だけであれば、中学生のうちから少しずつ伝えておくことができます。ここでは、専門的な話をする前段階として、家庭で伝えておきたい基礎知識のポイントを紹介します。
いきなり金利や返還方式といった専門的な話をする必要はありません。まずは、借りたお金には利子がつくことがある、利子とは借りた分に上乗せして返す、いわば借りることへの対価であるといった、お金の基本的な仕組みから伝えていきましょう。
- 「100円を借りて101円返す」といった身近な例で、利子の仕組みを説明する
- 無利子(第一種)と有利子(第二種)という言葉の違いを、簡単な言葉で伝える
- 家族の身近な借入(住宅ローンなど)を例に、「借りたら返す」という当たり前の感覚を伝える
高校生になって奨学金が現実的なテーマになったときに慌てて説明するより、中学生のうちから土台となる知識を少しずつ積み重ねておくほうが、いざというときの理解がスムーズです。
申込み前に親子で交わしておきたい返済の約束の作り方
奨学金を借りると決めたら、申し込みの前に、親子で返済についての約束を言葉にしておくことをおすすめします。ここでは、その約束をどのような形で交わしておくとよいか、具体的に見ていきましょう。
口約束だけでなく、簡単なメモや書面の形にしておくと、後々「言った・言わない」の食い違いを防げます。決めておきたい内容としては、返済の主体は誰か(基本的には本人)、返済が苦しくなったときにどこまで親が援助するか、援助する場合はどのような形にするか、といった点が挙げられます。
- 返済の責任は子ども本人にあることを、あらためて確認する
- 万一返済が苦しくなった場合、親がどこまでサポートするかの方針をあらかじめ話し合っておく
- 減額返還・返還期限猶予といった制度も、困ったときの選択肢として共有しておく
この約束を交わすプロセスは、単なる取り決めではなく、これは自分の責任で返していくお金なんだという子どもの当事者意識を育てる大切な機会になります。奨学金を借りるという決断そのものを、家族で支え合いながら、子どもが自立していくための一つの経験として位置づけていきましょう。
まとめ:奨学金を借りるべきか迷ったときは家計・返済・教育の3軸で判断しよう
奨学金を借りるべきかどうかに、一律の正解はありません。「奨学金=給付型」という誤解や、みんな借りているからという根拠のない安心感で判断せず、まず進学にかかる総費用を正しく把握し、貯蓄・収入・教育ローンと比較して本当に必要な金額を割り出すことが、後悔しない判断の出発点です。
その上で、卒業後の手取りと照らした返済シミュレーションを行い、返済が苦しくなったときの猶予・減額制度もあらかじめ知っておけば、過度に不安がる必要はありません。「借りられる限度額」ではなく「無理なく返せる上限ライン」を家庭で決めておくことが、借りすぎを防ぐ実践的な方法です。
この一連の判断プロセスを子どもと一緒にたどることこそが、教科書では得られない金融教育になります。「家計」「返済」「教育」という3つの軸で、ぜひ親子で納得のいく答えを見つけていってください。




