インフルエンサーの株推薦は信頼できる?親子で考える情報リテラシー

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「子どもが『YouTuberが勧めてた株、買いたい』と言い出して、どう答えていいかわからなかった…」という経験はありませんか?

フォロワー数百万人のインフルエンサーが「この株、今が買い時!」「この銘柄で資産が倍になった」と発信する時代になりました。大人でも思わず「本当かな」と引き込まれてしまうこうした情報が、スマホを持つ子どもたちに日常的に届いています。「有名な人が言っているから正しいはず」という思い込みは、大人にも子どもにも自然に働く心理です。だからこそ、正しく向き合うための知識と判断軸が必要です。

前回の記事「SNSの投資情報をどう見極めるか?」では、危険ワードや発信者のチェック方法をお伝えしました。この記事では、特に影響力の大きいインフルエンサーの投資情報に絞って、より具体的な向き合い方をお伝えします。

この記事では、次の3つのことがわかります。

  • インフルエンサーの投資情報に子どもが影響を受けやすい心理的な仕組みがわかる
  • 「有名人が言っているから正しい」という思い込みを崩す具体的な伝え方がわかる
  • インフルエンサー情報を親子の金融教育に活かす実践的な方法がわかる

塾で中高生と接していると、「好きなYouTuberが言っていた」という理由で情報を信じているケースに出会うことがあります。「誰が言ったか」より「何を言ったか・根拠は何か」を問う習慣は、意識的に育てなければ身につきません。この記事がその習慣を親子で作るきっかけになれば嬉しいです。

「この株買え!」インフルエンサーの投資情報、なぜ親は不安を感じるのか

インフルエンサーの投資情報に対して、多くの親御さんが「なんとなく怖い」という感覚を持ちながらも、その不安を子どもにうまく伝えられずにいます。不安の正体を言語化することで、子どもへの伝え方が明確になります。

子どもがYouTubeやSNSで投資情報に触れる機会が急増している

数年前まで、投資情報は証券会社の店頭・専門誌・経済新聞など、大人向けの限られた媒体で流通していました。しかし今や、YouTubeのトップページ・TikTokのおすすめ欄・Instagramのフィード——子どもが日常的に使うプラットフォームのあらゆる場所に、投資情報が紛れ込んでいます。

この変化がどれほど急速かを示すデータがあります。YouTubeで「株 投資」と検索すると、数万本以上の動画がヒットします。その中には金融の専門家による正確な情報もありますが、根拠の薄い情報や意図的に誇張された成功体験も大量に混在しています。

特に問題なのが、子どもが「投資を学ぼう」と思っていなくても、アルゴリズムが投資動画を届けてくることです。「お金の節約術」「アルバイトで稼ぐ方法」という動画を一度見ると、その後のおすすめ欄には「この株で資産3倍」「〇〇銘柄が今熱い」という動画が並び始めます。

子どもは投資を学ぼうとしていたわけではなく、自然と流れてくる動画を見ているだけです。しかしその繰り返しが、「投資は簡単に儲かるもの」「インフルエンサーが言う銘柄を買えば大丈夫」という誤った前提を無意識に形成していきます。親が「うちの子はまだ投資に興味がない」と思っていても、子どもの中にはすでに何らかのイメージが作られていることがあります。

「有名人が言っているから正しい」と信じてしまう心理のしくみ

「フォロワー100万人のインフルエンサーが勧めているから、きっと正しい情報だ」——この思い込みは、子どもだけでなく大人にも自然に働く心理です。なぜこのような判断をしてしまうのか、その心理的な仕組みを理解しておくことが大切です。

「権威バイアス」という心理的メカニズム

人は「権威があると感じる人の言葉」を無意識に信頼しやすい傾向があります。これを「権威バイアス」といいます。医師・弁護士・教授といった社会的権威だけでなく、フォロワー数・再生回数・チャンネル登録者数といった「数字による権威」にも、同じバイアスが働きます。

「100万人が見ているなら、きっと正しい情報だ」——この判断は感覚的には自然ですが、論理的には正しくありません。フォロワー数が多いことは「人気がある」ことを示しますが、「情報が正確である」ことを保証しません。この違いを子どもに伝えることが、権威バイアスを崩す第一歩になります。

「社会的証明」という心理的メカニズム

「みんながいいと言っているから正しいはず」という心理を「社会的証明」といいます。コメント欄に「これで儲かりました!」「ありがとうございます!」という投稿が並んでいると、「本当に効果があるんだ」と信じやすくなります。

しかし実際には、コメントは操作できます。「サクラコメント」として報酬を払って好意的なコメントを書かせるケースや、ネガティブなコメントを削除している可能性もあります。コメント欄が好意的な声ばかりで埋まっているとき、「批判的なコメントはどこにあるのか?」という視点を持つことが重要です。

「好意の法則」という心理的メカニズム

人は「好きな人・応援している人」の言葉を信じやすい傾向があります。子どもが日頃から見ているYouTuberやインフルエンサーへの親しみや好意が、「この人の言うことだから正しいはず」という判断につながります。

この心理は否定するものではありません。好きな人の影響を受けることは自然なことです。ただし「好き」と「正しい」は別物であることを、子どもが理解できているかどうかが重要です。「あのYouTuber、面白いよね。でも投資の話は、面白さと正確さは別だよね」という会話が、この心理を解きほぐす入口になります。

親自身も判断に迷う——情報の真偽をどう見極めればいいのか

「正直、自分でも判断できなくて困っている」という親御さんは多いです。インフルエンサーの投資情報の真偽を見極めることは、金融の専門知識がなければ難しいと感じるのは自然なことです。しかし、完璧に真偽を判断できなくても、「怪しいと判断するための最低限のチェック」はできます。

親自身が判断に迷う理由は主に3つあります。

「もしかしたら本当に儲かるかもしれない」という期待

人は損失を避けたい気持ちと同時に、「利益を得られるかもしれない」という期待にも引っ張られます。「もし本当だったら、信じなかった自分が損をする」という感覚が、批判的な判断を鈍らせます。この心理を「FOMO(取り残される恐怖)」といいます。インフルエンサーの発信はこのFOMOを意図的に刺激するように設計されていることが多く、「今すぐ買わないと損」という感覚が生まれたとき、それ自体が操作されているサインかもしれません。

専門用語で内容の正確さが判断できない

「この銘柄のPERが割安」「移動平均線がゴールデンクロスを示している」——専門用語が並ぶと「詳しそうな人だ・正確な情報だ」という印象が生まれます。しかし専門用語の使用は、情報の正確さの証拠にはなりません。難しい言葉を使うことで「素人には判断できない」という状況を意図的に作り出しているケースもあります。

過去に「当たった」体験が判断を歪める

以前インフルエンサーが勧めた株が実際に上がった経験があると、「あの人の情報は正しかった」という学習が起き、次の情報も信じやすくなります。しかし投資の世界では、1回当たったことは次も当たる根拠にはなりません。「過去の的中率」よりも「根拠の説明があるか」「リスクの説明があるか」という点を判断の軸にすることが、より確実な見極め方になります。

親自身がこれらの迷いを感じていることを、子どもに正直に話してみましょう。「お父さんもこういうとき判断が難しいと感じる。だから一緒にチェックする習慣を作ろう」という言葉が、親子で情報を見極める文化を作る最初の一歩になります。

インフルエンサーの株情報が危険な理由——投資推奨の裏側を親子で知ろう

「この株が上がる」という情報を発信するインフルエンサーには、視聴者には見えていない「裏側の構造」があることが多いです。その構造を知らないまま情報を受け取ることが、最も危険な状態です。ここでは、インフルエンサーの投資推奨の裏にある仕組みを、親子で理解するための視点をお伝えします。

広告・PR・アフィリエイト——「おすすめ」には利益関係が潜んでいる

インフルエンサーが「この株・この証券会社・この投資サービスをおすすめします」と発信するとき、その裏には多くの場合、金銭的な利益関係が存在します。この事実を知っているかどうかで、情報の受け取り方がまったく変わります。

① 証券会社・金融サービスとのタイアップ広告 

証券会社や投資サービス会社がインフルエンサーに報酬を支払い、自社サービスを紹介してもらう形式です。「この証券会社、手数料が安くておすすめ」「このアプリで私は資産を増やした」という発信が、実は有償のPR投稿であるケースがあります。

2023年10月からステルスマーケティングが景品表示法違反として規制されましたが、「PR」「広告」の表記を小さく・目立たない場所に置くことで事実上隠しているケースはまだ多く残っています。

② アフィリエイト報酬 

インフルエンサーが紹介したリンクから読者が口座を開設・サービスに登録すると、インフルエンサーに報酬が入る仕組みです。「このリンクから口座開設するとお得」という誘導が、実はアフィリエンサーの収益源になっています。アフィリエイト自体は合法的なビジネスですが、「報酬のために過度に良い面を強調し、リスクを軽視した情報発信」につながりやすい構造的な問題があります。

③ 自分が保有している銘柄の宣伝(ポジショントーク) 

インフルエンサーが「この株、今が買い時!」と発信するとき、すでに自分がその株を大量保有している場合があります。自分の発信によって株価が上がれば、保有している株の価値も上がります。これを「ポジショントーク」といいます。

ポジショントーク自体が必ずしも違法ではありませんが、「自分が利益を得るために情報を発信している」という事実を隠したまま「みなさんのために教えます」という体裁で発信することは、聞き手への誠実さに欠けます。

子どもへの伝え方として、こんな問いかけが効果的です。「このインフルエンサー、なんでこの株を教えてくれると思う?もし自分がその株を持っていたら、上がってほしいから勧めるよね。そういう可能性も考えながら見ることが大切だよ。」

過去の「当たり予想」だけを切り取る『確証バイアス』のワナ

「このインフルエンサー、前に勧めた株が本当に上がったから信頼できる」——この判断は、一見合理的に見えます。しかし実際には、「確証バイアス」という认知の歪みにはまっている可能性があります。

確証バイアスとは何か

確証バイアスとは、「自分がすでに信じていることを支持する情報だけを集め、矛盾する情報を無視してしまう傾向」のことです。あるインフルエンサーを「信頼できる」と思った瞬間から、「当たった予想」だけが記憶に残り、「外れた予想」は自然と忘れられていきます。

たとえば、インフルエンサーが100回予想して30回当たったとします。30回の「当たり」は動画として残り、視聴者の記憶にも残ります。しかし70回の「外れ」は、動画が削除されたり・話題にならなかったりして、視覚的に残りにくいです。結果として「この人の予想はよく当たる」という印象が生まれますが、実際の的中率は30%しかありません。

「生存バイアス」という関連する落とし穴

確証バイアスと関連して、「生存バイアス」という問題もあります。インフルエンサーが「私はこの投資で〇〇万円増えました」と発信するとき、その陰には同じ方法を試して損失を出した多くの人がいます。しかし損失を出した人は発信しないか、チャンネルそのものが消えてしまっています。「成功した人の話しか目に入らない」という環境が、「この方法は誰でも成功できる」という誤った認識を生み出します。

子どもへの伝え方として、こんなたとえが使えます。「100人が参加したゲームで、1人だけが大勝ちしたとする。その1人が『私の方法を教えます』と言っても、99人には通用しなかった方法かもしれない。成功した人の話だけ見ると、そのことを忘れてしまいやすいんだよ。」

金融商品の無登録推奨は違法になることもある——法律の基礎知識

インフルエンサーの投資情報には、法律的に問題になり得るケースが存在します。この事実を親子で知っておくことで、「有名人でも違法なことをする場合がある」という認識が生まれ、権威バイアスを崩す効果があります。

金融商品取引法が定める規制

日本では、金融商品取引法により、有償で投資助言を行うには「投資助言・代理業」の登録が必要です。具体的には「この株を買いなさい」「このタイミングで売りなさい」という具体的な投資判断の提供を、報酬を受けて行う場合は登録業者でなければなりません。

登録なしにこうした行為を行うことは、金融商品取引法違反になる可能性があります。金融庁は無登録業者のリストを公表しており、怪しい投資情報を発信する業者・個人の情報が掲載されています。

「情報提供」と「投資助言」の境界線

「これは単なる情報提供であり投資助言ではない」という建前で発信しているインフルエンサーも多いです。「あくまで個人の意見です」「投資は自己責任で」という免責事項をつけることで、法的グレーゾーンで活動しているケースがあります。

免責事項があるからといって、情報が正確・安全であるという保証にはなりません。「自己責任」という言葉を前面に出して責任を回避しながら、感情を煽る情報発信をしているケースには特に注意が必要です。

子どもには「有名人でも、お金に関する情報を発信するには法律上の制約があることがある。それを知らずに・あるいは知っていて違反している人もいる」という事実を、具体的に伝えておきましょう。「有名=法律を守っている」ではないという認識が、権威バイアスを崩す重要な視点になります。

情報リテラシーを育てる——株の話を子どもと一緒に疑う練習法

インフルエンサーの投資情報の危険性を理解した上で、次は「子ども自身が情報を疑う力」を実践的に育てるための方法を見ていきましょう。知識を教えるだけでなく、日常の中で繰り返し「疑う練習」をすることで、判断力は本物の力として定着します。

「誰が・なぜ・何のために発信しているか」を3秒で考える習慣

投資情報に限らず、あらゆる情報を受け取るときに最初に働かせるべき問いが3つあります。「誰が」「なぜ」「何のために」——この3つを3秒で考える習慣を、子どもが自動的にできるようになることが目標です。

「誰が」:発信者の正体を確認する

「このインフルエンサーは何者か」を最初に考えましょう。本名・資格・所属・発信歴——これらが明確でない発信者の情報は、最初から慎重に扱う必要があります。「顔出し・本名公開で長年発信している人」と「匿名・プロフィール不明の人」では、情報の信頼性の前提がまったく異なります。

「なぜ」:発信者の動機を考える

「この人はなぜこの情報を発信しているのか」を考えましょう。「視聴者のために教えたい」「広告収入のため」「自分が保有する株を上げるため」「サービスを売るため」——動機によって情報の性質がまったく変わります。

「善意で教えてくれている」という前提で情報を受け取るより、「この発信者にとってのメリットは何か」という視点を持つことが、情報の性質を正しく評価するコツです。

「何のために」:情報の目的を見極める

「この情報は最終的に、私に何をさせようとしているのか」を考えましょう。「口座を開設させる」「特定の銘柄を買わせる」「有料コンテンツに誘導する」——情報の最終的なゴールが見えると、情報の客観性が評価しやすくなります。

この3つの問いを「3秒で考える」という習慣にするための練習方法として、日常の広告・CMを使うのが効果的です。テレビのCMを見ながら「誰が・なぜ・何のために」を家族で考える習慣を作ることで、投資情報に限らずあらゆる情報判断に使える汎用的なスキルが育ちます。

一次情報(企業IR・金融庁サイト)とSNS情報の違いを親子で比べてみる

インフルエンサーの投資情報と一次情報を実際に並べて比べる体験が、情報の質の違いを子どもに最も実感させる方法です。頭で「一次情報が大切」と理解するより、実際に見比べることで「こんなに違うんだ」という驚きが学びを深めます。

一次情報とSNS情報の具体的な違い

比較項目

一次情報(企業IR・金融庁)

SNS・インフルエンサー情報

発信者

企業・政府機関(公式)

個人・匿名の場合あり

根拠

財務データ・法的根拠

個人の判断・経験則

リスク開示

必ず記載

省略されやすい

更新頻度

決算ごと・定期的

随時・不定期

目的

情報開示義務の遂行

収益・影響力の拡大

子どもが「気になる」と言った株について、次の2つを実際に開いて比べてみましょう。

① インフルエンサーの動画・投稿 

「この株が上がる理由」として何が語られているか・根拠は何か・リスクの説明はあるかを確認します。

② 企業の公式IR(投資家向け情報)ページ 

企業の公式サイトの「IR情報」「投資家向け情報」のページを開きます。決算資料・業績推移・今後の事業計画が、数字と事実をもとに説明されています。

2つを並べて見たとき、多くの子どもは「インフルエンサーの情報と企業の公式情報、全然違う」という気づきを得ます。この「違い」を自分の目で確認した体験が、「一次情報を確認する習慣」を自然に根づかせる最も効果的な方法です。

実際のインフルエンサー投稿を教材に使う「情報検討タイム」

知識を教えるだけで終わらず、実際のインフルエンサー投稿を教材として使う「情報検討タイム」を家庭に取り入れることで、情報リテラシーは実践的なスキルとして定着します。

① 週1回・15分の時間を確保する 

夕食後・休日の午前中など、固定のタイミングを決めます。「今週気になった投資情報」を子どもか親が1つ持ち寄ることからスタートします。

② 「3秒チェック」から始める 

持ち寄った情報について、「誰が・なぜ・何のために」の3秒チェックを最初に行います。これだけで「この情報、ちょっと怪しいかも」という感覚が自然に働き始めます。

③ 一次情報と照らし合わせる 

「この情報、企業の公式サイトや金融庁のページで確認できる?」という問いかけで、一次情報との照合を習慣にします。確認できた場合・できなかった場合の両方で「なぜそうなのか」を話し合いましょう。

④ 「この情報、使えると思う?使えないと思う?なぜ?」で締める 

最終的な判断を子どもに委ねることで、「自分で判断する経験」を積み重ねます。正解・不正解より、「自分の言葉で理由を言える」という体験が情報リテラシーの核心的な力になります。

「情報検討タイム」は、投資教育であると同時に批判的思考(クリティカルシンキング)の練習でもあります。この習慣が、将来子どもが社会に出てあらゆる情報に向き合うときの判断力の土台になっていきます。

子どもへの金融教育に活かす——正しい投資判断の基準を一緒に作ろう

インフルエンサーの情報の危険性を理解した後、最も大切なのは「では、何を基準に投資を判断すればいいか」を親子で作ることです。「ダメなもの」を教えるだけでは、子どもの判断力は育ちません。「正しい基準」を自分たちの言葉で持つことで、どんな情報に出会っても自分で判断できる力が生まれます。

「値上がりするかどうか」より先に考えるべき『自分のリスク許容度』

インフルエンサーの投資情報が語る内容のほとんどは、「この株が上がるかどうか」という予測です。しかし投資判断において、値上がり予測より先に考えるべき重要な問いがあります。それが「自分はどこまでのリスクを受け入れられるか」というリスク許容度です。

リスク許容度とは、「投資したお金が減ったとき、どこまで耐えられるか」という自分自身の限界値のことです。同じ「10%の損失」でも、「全然気にならない」という人もいれば「眠れなくなる」という人もいます。この違いがリスク許容度の個人差です。

リスク許容度は主に3つの要素で決まります。

① 投資する金額の性質 

「すぐ使う予定のないお金」か「生活費の一部」かによって、同じ金額でも損失の痛みはまったく異なります。生活に影響するお金を投資に使っていると、少しの損失でも「どうしよう」という不安が生まれ、冷静な判断ができなくなります。「投資に使うのは、なくても生活に困らないお金だけ」というルールが、リスク許容度を保つ最も重要な原則です。

② 投資する期間 

10年・20年使わない予定のお金なら、一時的な下落があっても長期で回復を待てます。しかし3年以内に使う予定のお金なら、下落したタイミングで売らざるを得なくなるリスクがあります。「いつ使うお金か」を明確にすることが、適切なリスク設定の前提になります。

③ 精神的な耐性 

「20%下がっても長期で戻ることがわかっていれば気にならない」という人と、「5%下がっただけでソワソワする」という人では、同じ投資商品でも体験がまったく異なります。自分の精神的な耐性を正直に評価することが、長続きする投資スタイルを作る鍵です。

子どもへの伝え方として、こんな問いかけが使えます。「もし1万円投資して、8,000円になったらどう感じる?眠れなくなる?それとも平気?」この問いへの答えが、その子のリスク許容度の目安になります。「値上がりするかどうか」より「自分がどこまで耐えられるか」を先に考える習慣が、インフルエンサーの煽り情報に流されない判断力の土台になります。

長期・分散・積立——SNSで語られにくい地味だけど本質的な投資の原則

インフルエンサーがSNSで発信する投資情報のほとんどは「短期で大きく稼ぐ」という方向性を持っています。なぜなら、「毎月コツコツ積み立てよう」という地味な話は、視聴者の感情を動かしにくく、再生回数が伸びにくいからです。

しかし実際の資産形成において最も有効とされている方法は、SNSでは語られにくい「長期・分散・積立」という地味な原則です。この原則をインフルエンサーの情報と対比させることで、「なぜ地味な方法の方が本質的なのか」が子どもにも伝わります。

「長期」——時間を味方につける

短期投資は、値動きのタイミングを正確に読む必要があります。しかしプロの機関投資家でさえ、市場のタイミングを継続的に予測することは難しいとされています。一方、長期投資は「世界経済が長期的に成長してきた歴史」を根拠にしています。

インフルエンサーが語る「今が買い時」という予測より、「10年・20年という時間軸で経済成長に乗る」という戦略の方が、根拠が明確で再現性が高いです。「今日の株価を当てようとするより、20年後も世界経済が今より成長していると思うかどうかを考える方が、実はシンプルな判断なんだよ」という伝え方が、子どもには届きやすいです。

「分散」——リスクをコントロールする

インフルエンサーが「この1銘柄に集中投資すべき」と語るとき、その根拠は多くの場合、過去の値動きや個人の感覚的判断です。しかし1銘柄への集中投資は、その会社の業績悪化・不祥事・業界の衰退など、予測不能なリスクをすべて引き受けることになります。

「インデックスファンドで数百〜数千社に分散すること」は、地味に見えますが「コントロールできないリスクを最小化する」という合理的な戦略です。「全部の卵を1つのカゴに入れないのが分散。インフルエンサーが勧める1銘柄集中投資は、全部を1つのカゴに入れることと同じだよ」という伝え方が、子どもには直感的に理解しやすいです。

「積立」——感情を排除する

インフルエンサーの情報に従って「今が買い時」と判断して投資することは、感情による判断です。しかし毎月決まった金額を積み立てるドルコスト平均法は、「買うタイミングの判断」を不要にします。高いときも安いときも同じ金額を買い続けることで、購入価格が自動的に平均化されます。

「感情を排除して機械的に続けること」は、短期の値動きに一喜一憂するインフルエンサー情報と正反対のアプローチです。「地味だけど、感情に左右されない仕組みを作ることが、長期投資で成果を出す最大の秘訣なんだよ」という言葉が、子どものお金との向き合い方を変える一言になります。

家族で話し合う『投資する前に確認する5つの質問』リストの作り方

インフルエンサーの情報に接したとき・実際に投資を検討するとき・子どもがお金の判断をするとき——あらゆる場面で使える「投資前の5つの確認質問」を、家族で一緒に作りましょう。

既製品のチェックリストより、家族で話し合って自分たちの言葉で作ったリストの方が、実際の場面で機能します。「これは私たちが決めたルールだ」という当事者意識が、判断を迷ったときにリストに立ち返る行動を生み出します。

「投資する前に確認する5つの質問」の作り方

以下のひな形を参考に、家族で話し合いながら自分たちの言葉に書き換えてみましょう。

  • 質問①:この情報の発信者は誰で、なぜ発信しているか? 
  • 質問②:リスクの説明はあるか? 
  • 質問③:この投資に使うお金は、なくなっても生活に困らないお金か? 
  • 質問④:一次情報(企業IR・金融庁サイト)で確認したか? 
  • 質問⑤:48時間待っても「やりたい」と思えるか? 

作ったリストは、冷蔵庫・子ども部屋の壁・スマホのメモアプリなど、すぐ見られる場所に置いておきましょう。また、半年〜1年ごとに「このリストで足りないことはあるか」を家族で見直すことで、リストが家族の金融リテラシーの成長とともに育っていきます。

「投資する前に5つ確認する」という習慣は、インフルエンサーの煽り情報に対する最も実践的な防御です。そして子どもが社会に出た後も、あらゆるお金の判断場面で機能し続ける一生ものの習慣になります。

まとめ:情報を疑う力が、子どもの金融リテラシーを育てる

この記事では、インフルエンサーの「この株買え!」という情報の裏側にある構造から、情報を見極める実践的な方法、そして正しい投資判断の基準作りまでをお伝えしてきました。

「情報を疑う力」は、投資だけで使える特殊なスキルではありません。進路選択・就職活動・人間関係・健康情報——人生のあらゆる場面で「この情報は信頼できるか」を問う力は、子どもを守り続けます。

私が塾で長年感じてきたことがあります。「自分で考えて判断できる子どもは、どんな環境に置かれても道を切り開ける」ということです。お金の情報を疑う練習は、その「自分で考える力」を育てる最も身近な機会のひとつです。

今日、子どもが見ている動画の一つを一緒に開いて「この人、なんでこれを教えてくれると思う?」と一言問いかけてみてください。その小さな問いが、子どもの情報リテラシーを育てる最初の一歩になります。そして気づいたころには、子どもの方から「この情報、なんか怪しくない?」と言ってくる日が来るはずです。情報を疑う力は、教えるものではなく、一緒に育てるものです。